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合唱の「パート」とは?

  • Brian Munguia
  • 4月29日
  • 読了時間: 12分

更新日:9月1日




歌の世界には、さまざまな声種(ボイス・タイプ)があります。特に合唱では、これらはソプラノ、アルト、テノール、バス の4つの声部に分けられるのが一般的です。合唱経験のある人なら、これらの名称には聞き覚えがあるでしょう。


しかし、アマチュアの歌い手にとって、声がどのように分類されるのか、またその基準についてはあまり理解されていないことが多いです。さらに、オペラやミュージカルでは合唱とは異なる声種の分類があり、合唱団員、指揮者、ボイストレーナー、声楽の専門家の間で意見が分かれることもあります。


本記事では、合唱の中での声種の分類と役割、そして合唱以外での声の位置づけについて掘り下げていきます。


声部の名称の起源:ソプラノ、アルト、テノール、バス


現代の合唱では、歌い手の声域(どれだけ高音・低音を出せるか)を基準にパート分けをすることが一般的ですが、もともとソプラノ、アルト、テノール、バスという名称は、単なる音域ではなく合唱内での役割を指していました。


11世紀から15世紀にかけての初期合唱音楽では、合唱は基本的に男性の声のみで構成され、これらの用語は各声部の機能と役割を示すものとして使われていました。


テノール (Tenor)


「テノール」という言葉は、ラテン語の「tenere(保持する)」に由来します。


初期の音楽では、テノールの役割は旋律の基本となるカントゥス・フィルムス (Cantus Firmus)を維持することでした。カントゥス・フィルムスは、既存の旋律を土台として作曲されるもので、合唱内の他の声部は、テノールとの関係性によって命名されました。


アルト (Alto)


「アルト」はラテン語の「altus(高い)」に由来します。


かつては高音域の男性(カウンターテナー)がファルセットを使い、テノールに対してディスカント(対旋律)を歌っていました。その後、女性が合唱に参加するようになると、「アルト」は女性の低音声(コントラルト)を指すようになりました。


バス (Bass)


「バス」はラテン語の「bassus(低い)」に由来し、テノールよりも低い音域を担当しました。この声は曲に安定感を与えるとともに、ハーモニーの土台を築く役割を果たしていました。


ソプラノ (Soprano)


「ソプラノ」という言葉はイタリア語の「sopra(上)」に由来します。


この用語が登場したのは18世紀頃で、それ以前はソプラノ旋律を少年歌手やカストラート(去勢男性)が歌っていました。これは、当時の宗教的・社会的な制約により、女性が公の場で歌うことが禁じられていたためです。


アルトが担当していた対旋律(ディスカント)の役割をソプラノが引き継ぎ、より高い音域を歌うようになりました。その後、女性が合唱に加わるようになり、ソプラノは女性の最も高い声を指す言葉へと変化しました。


合唱における声部の役割


合唱で声部を決める際は、歌い手の声種(ボイス・タイプ)、声域(出せる音の高さ)、音色(声の質感)を十分に考慮することが理想です。しかし、実際には合唱団の編成や楽曲の都合によって、本来の声種とは異なるパートを担当するケースもあります。


合唱の声部は基本的にソプラノ、アルト、テノール、バスの4つに分類されますが、楽曲の構成によってさらに細かく分けられることもあります(例:ソプラノ1、ソプラノ2、アルト1、アルト2 など)。


ソプラノ (Soprano)


最も高い女性の声とされ、楽譜上では一番高い音域に書かれることが多いです。ソプラノはしばしばメロディーを担当し、曲全体に華やかさを与えます。


アルト (Alto)


合唱では最も低い女性の声とされ、譜面上ではソプラノとテノールの間に配置されます。アルトの声は深みや温かみをもたらし、ハーモニーに厚みを加える役割を果たします。


テノール (Tenor)


合唱では最も高い男性の声とされ、アルトとバスの間の音域を歌います。初期合唱音楽と同様に、旋律や重要な対旋律を担当することがあり、合唱全体の安定感や複雑な響きを生み出す役割を果たします。


バス (Bass)


合唱の中で最も低い音域を担当し、ハーモニーの基盤となる声部です。バスは深みと重厚な響きを持ち、曲全体の土台を支えます。


合唱以外での声種分類


ソプラノ、アルト、テノール、バスは、合唱に限らず幅広い音楽ジャンルで認識されている声種ですが、実際にはこれらの名称がさらに細かく分類されることがあります。


一般的に、これらの基本的な4つの声部は、7つの代表的な声種に分けられます。



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ソプラノ (Soprano)


最も高い音域を持つ声で、明るく澄んだ響きが特徴です。オペラやクラシック音楽では華やかで技巧的な役柄を担当することが多く、表現力が重要視されます。


代表的なソプラノ歌手

  • 三浦環 (1884–1946) – 日本人初の国際的オペラ歌手として活躍。

  • Maria Callas (1923–1977) – 卓越した表現力を持つ伝説のソプラノ。

  • Joan Sutherland (1926–2010) – 驚異的な技巧を誇るオーストラリアの名歌手。

  • Leontyne Price (b. 1927) – 豊かな音色を持つアメリカの偉大なソプラノ。

  • 渡辺葉子 (1953–2004) – 日本が誇るオペラソプラノ。

  • Mariah Carey (b. 1969) – ポップ音楽界で広い音域と独自のスタイルを持つ歌手。

  • Renée Fleming (b. 1959) – 現代を代表するオペラソプラノ。

  • Ariana Grande (b. 1993) – ポップミュージックでソプラノの美しい声を生かす歌手。



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メゾソプラノ (Mezzo-Soprano)


ソプラノとアルトの中間の音域を持ち、ソプラノよりも深みのある響きが特徴です。女性歌手の中で最も一般的な声種であり、オペラでは力強さを持つ役柄を担当することが多く、ポップやジャズなど幅広いジャンルで活躍します。


代表的なメゾソプラノ歌手

  • Christa Ludwig (1928–2021) – ドイツの名歌手で幅広いレパートリーを持つ。

  • Cecilia Bartoli (b. 1966) – バロックやクラシック音楽で圧倒的な技巧を誇る。

  • 藤村実穂子 (b. 1966) – 日本が誇るワーグナー歌手。

  • Joyce DiDonato (b. 1969) – 表現豊かなオペラ歌手として活躍。

  • Beyoncé Knowles-Carter (b. 1981) – ポップ・R&Bで影響力のあるメゾソプラノ。

  • Aretha Franklin (1942–2018) – ソウル界の女王、力強いメゾソプラノの代表格。

  • 白井光子 (b. 1947) – ドイツ歌曲のスペシャリストとして評価される日本の歌手。

  • Selena Gomez (b. 1992) – ポップの世界で活躍するメゾソプラノ。



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アルト (コントラルト) (Alto / Contralto)


最も低い女性の声で、深みと温かみのある響きが特徴です。オペラでは母親役や貴族役を担当することが多く、合唱ではハーモニーの安定感を支える存在となります。


代表的なアルト歌手

  • Dame Clara Butt (1872–1936) – イギリスの伝説的コントラルト。

  • Marian Anderson (1897–1993) – 歴史的障壁を乗り越えたコントラルト。

  • 川崎静子 (1919–1982) – 日本のクラシック音楽界に貢献したアルト歌手。

  • Maureen Forrester (1930–2010) – 芸術性豊かなカナダのコントラルト。

  • 井原直子 (b. 1945) – 日本のコントラルト、オペラと歌曲で活躍。

  • Judy Garland (1922–1969) – ハリウッドミュージカル界の象徴的なアルト。

  • Natalie Stutzmann (b. 1965) – 世界的に有名なコントラルト&指揮者。

  • Alicia Keys (b. 1981) – ソウルとポップで活躍するアルト。



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カウンターテナー (Countertenor)


カウンターテナーは、男性の声の中で最も高い音域を持ち、コントラルト(女性の最低音域)と同じ範囲の声を持ちます。これは、ファルセット(裏声)やヘッドボイスを駆使することで可能になります。


一般的に高音域を歌いますが、地声(チェストボイス)を使うとテノールやバリトンに近い響きになります。カウンターテナーは最も珍しい男性の声種ですが、特にバロック音楽やベンジャミン・ブリテンの楽曲などで頻繁に活用されます。


代表的なカウンターテナー歌手

  • Alfred Deller (1912–1979) – 近代のカウンターテナーの先駆者。

  • John Whitworth (1921–2013) – イギリスのカウンターテナー、古楽の名演奏家。

  • Russel Oberlin (1928–2016) – アメリカの著名なカウンターテナー。

  • 米良美一 (b. 1971) – 日本を代表するカウンターテナー。

  • Reginald Mobley (b. 1977) – 現代の活躍するカウンターテナーの一人。

  • Philippe Jaroussky (b. 1978) – 卓越した技巧を持つフランスのカウンターテナー。



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テノール (Tenor)


テノールはカウンターテナーに次ぐ高い音域の男性の声で、明るく力強い響きが特徴です。柔軟性があり、躍動感のある旋律を担当することが多く、特にオペラでは主人公や英雄的な役柄を歌うことが一般的です。


代表的なテノール歌手

  • Fritz Wunderlich (1930–1966) – 美しいリリックテノールとして知られる名歌手。

  • Luciano Pavarotti (1935–2007) – 世界的に愛されたテノールの巨匠。

  • Plácido Domingo (b. 1941) – 幅広いジャンルで活躍するオペラ界の伝説。

  • Paul McCartney (b. 1942) – ビートルズの音楽における象徴的テノール。

  • Ian Bostridge (b. 1964) – クラシック音楽界の名テノール。

  • 福井敬 (b. 1962) – 日本を代表するオペラテノール。

  • Jonas Kaufmann (b. 1969) – 現代オペラ界のトップテノール。

  • 村上敏明 (b. 1972) – クラシック音楽で活躍する日本のテノール。

  • Bruno Mars (b. 1985) – ポップミュージックで輝くテノール。



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バリトン (Baritone)


バリトンはテノールとバスの間に位置し、深みと温かみのある音色を持ちます。幅広い音域を持つため、テノールの力強さとバスの重厚感を兼ね備えた役柄を担当することが多いです。バリトンは最も一般的な男性の声種で、オペラでもポピュラー音楽でも頻繁に登場します。


代表的なバリトン歌手

  • Frank Sinatra (1915–1998) – ジャズとポップで活躍した伝説の歌手。

  • Dietrich Fischer-Dieskau (1925–2012) – 卓越した表現力を持つドイツ歌曲の巨匠。

  • Elvis Presley (1935–1977) – ロック界のアイコン、力強いバリトンの声を持つ。

  • Gerald Finley (b. 1960) – オペラと歌曲で活躍するカナダのバリトン。

  • Dmitri Hvorostovsky (1962–2017) – 優雅で力強いロシアのオペラバリトン。

  • 宮本益光 (b. 1972) – 日本のクラシック音楽界のバリトン歌手。

  • John Legend (b. 1978) – R&Bとポップで輝くバリトン。



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バス (Bass)


バスは最も低い音域を持つ男性の声で、重厚で深みのある響きが特徴です。オペラでは権威ある役柄や荘厳なキャラクターを担当することが多く、合唱ではハーモニーの土台を支える重要な声部となります。


代表的なバス歌手

  • Boris Christoff (1914–1993) – 歴史的に最も優れたバス歌手の一人。

  • Cesare Siepi (1923–2010) – イタリアの名バス、ヴェルディ作品で活躍。

  • 岡村喬生 (1931–2021) – 日本のオペラ界を代表するバス歌手。

  • Martti Talvela (1935–1989) – フィンランドの力強いバス歌手。

  • Barry White (1944–2003) – ソウルミュージック界のバスの代表格。

  • 岡山廣幸(1948–2015) – 日本のクラシック音楽で活躍したバス。

  • René Pape (b. 1964) – 現代最高峰のバス歌手の一人。

  • Tim Storms (b. 1972) – 世界で最も低い声を持つ記録保持者。

 

ドイツのファッハ (Fach) システムによる声種分類


上記の基本的な声種分類に加え、オペラの世界ではドイツのファッハ (Fach) システムによるより詳細な声種分類が存在します。このシステムでは、声域だけでなく、声の重さ(音量)や音色も考慮され、歌手の声質に最も適した役柄を割り当てる際に用いられます。


以下に、ファッハ・システムにおける主な声種を紹介します。


ソプラノ (Soprano)

  • リリック・コロラトゥーラ・ソプラノ (Lyric Coloratura Soprano)

  • ドラマティック・コロラトゥーラ・ソプラノ (Dramatic Coloratura Soprano)

  • キャラクター・ソプラノ / スブレット (Character Soprano / Soubrette)

  • リリック・ソプラノ (Lyric Soprano)

  • スピント・ソプラノ (Spinto Soprano)

  • フル・ドラマティック・ソプラノ (Full Dramatic Soprano)

  • ハイ・ドラマティック・ソプラノ (High Dramatic Soprano)


メゾソプラノ (Mezzo-Soprano)

  • コロラトゥーラ・メゾソプラノ (Coloratura Mezzo-Soprano)

  • リリック・メゾソプラノ (Lyric Mezzo-Soprano)

  • ドラマティック・メゾソプラノ (Dramatic Mezzo-Soprano)


アルト / コントラルト (Alto / Contralto)

  • ドラマティック・コントラルト (Dramatic Contralto)

  • 深みのあるアルト / コントラルト (Deeper Alto / Contralto)


テノール (Tenor)

  • リリック・テノール (Lyric Tenor)

  • リリック・ドラマティック・テノール / スピント・テノール (Lyric Dramatic Tenor / Spinto Tenor)

  • キャラクター・テノール (Character Tenor)

  • ヘルデンテノール / ヒロイック・テノール / ドラマティック・テノール (Heldentenor / Heroic Tenor / Dramatic Tenor)

  • リリック・コミック・テノール / テノール・ブッフォ (Lyric Comic Tenor / Tenor Buffo)


バリトン (Baritone)

  • ライト・バリトン (Light Baritone)

  • リリック・バリトン (Lyric Baritone)

  • キャヴァリエ・バリトン / バリトン・カンタービレ (Cavalier Baritone / Baritone Cantabile)

  • キャラクター・バリトン / ヴェルディ・バリトン (Character Baritone / Verdi Baritone)

  • ドラマティック・バリトン (Dramatic Baritone)

  • リリック・バス・バリトン / ロー・リリック・バリトン (Lyric Bass-Baritone / Low Lyric Baritone)


バス (Bass)

  • ドラマティック・バス・バリトン / ハイ・ドラマティック・バス (Dramatic Bass-Baritone / High Dramatic Bass)

  • ヤング・バス (Young Bass)

  • リリック・コミック・バス / リリック・ブッフォ (Lyric Comic Bass / Lyric Buffo)

  • ドラマティック・コミック・バス (Dramatic Comic Bass)

  • ロー・バス / リリック・シリアス・バス / バッソ・プロフォンド (Low Bass / Lyric Serious Bass / Basso Profundo)

  • ドラマティック・シリアス・バス / ドラマティック・ロー・バス / ドラマティック・バス (Dramatic Serious Bass / Dramatic Low Bass / Dramatic Bass)

 

合唱のパート割り当てによる混乱


ここまでで、声種の分類が合唱音楽で扱われるほど単純なものではないことを理解できたと思います。声楽の訓練を受けた人は、声楽教師と合唱指揮者の間で意見が対立することがあると気づいているかもしれません。これは、合唱における「パート」の割り当てと、歌い手の「声種」が一致しないことことがあるのが原因です。


現代の合唱では、声部の分類が単純化されすぎています。これに対して、ベルカント唱法(オペラの基本)やその他の歌唱スタイルでは、より細かい声種の違いが重視されます。そのため、合唱のパート割り当てが正確な声種分類と混同されることがあり、特に声楽の訓練を受けていない歌い手にとっては、自分の本来の声種について誤解が生じやすくなります。

また、「自分はこのパートを歌いたい!」という希望を持って合唱団に入る歌い手もいますが、声種は個人の声帯の構造や訓練によって決まるものであり、単なる希望で選べるものではないことを理解していない場合もあります。


さらに、合唱のパート割り当てには、声域(音の高さ)と合唱の編成が影響を与えるため、必ずしも本来の声種に基づいているとは限りません。これは、合唱団が1シーズン通しての編成だけでなく、特定の楽曲や、その一部分のみのためにパートを決定することがあるためです。また、地域や文化によって特定の声種の歌い手が不足していることも、パート決定の一因となることを忘れてはなりません。


まとめ


多くのアマチュアの合唱団員は、声種の定義の複雑さや、自分のパートがどのように決定されたのかを十分に理解していません。合唱のパート分類は限られた枠組みの中で決められるため、必ずしも歌い手の本来の声種と一致するわけではなく、これが混乱の原因となることもあります。


また、合唱団の編成や楽曲の都合により、歌い手の柔軟性が求められることが多く、必ずしも自分の声種に合ったパートを担当できるとは限りません。例えば、メゾソプラノがソプラノを歌うこともあれば、バリトンがテノールの旋律を担当することもあります。


このような状況は、指揮者や声楽教師、歌手にとっては悩みの種となることがありますが、同時に、人間の声の柔軟性があるからこそ可能な調整とも言えます。また、この声の個性があるからこそ、同じ編成の合唱団でもまったく異なる響きを持ちます。それぞれの合唱団が生み出す独自の音色こそが、合唱を聴く楽しさにつながるのです。

 
 
 

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